2010-9-3

【超古典】 第2章(11)


◆ 今回の重要単語

  177 やむごとなし
  178 せんなし
  179 ありつる
  180 な~そ




瞳の震える声が聞こえた。
「『口惜し残念だ)』とか、『本意なし不本意だ)』とか、
そんなこと……」
 瞳の口調が強くなる。
さること、言ひそんなこと、言わないでください)」
 私はアンケートを見つめていた視線を上げた。みんなも
顔を上げていた。瞳が続けた。
「みんな頑張ったのに、みんな喜んでくれたのに……。200 人
に足りなかったという、たったそれだけで、ありつる
っきの
)ライヴは、みんな噓になっちゃうんですか。いや、
ありつるライヴばかりにはあらずさっきのライヴばっか
りではない
)。みなで練習せしやむごとなき時も、噓になり
ぬるか
みんなで練習した、大切な時間も噓になってしま
うのか
)」
 瞳のクラッシュシンバルが弾けた瞬間が蘇る。
 アンコールで歌った『ピュア・ホワイト』の16 ビートが
私の胸を熱くする。
 瞳が首を振った。
それこそ、せんなきことなれそれこそ無意味なことだ)」


⇒本書101ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の100ページにあります。)



2010-8-31

【超古典】 第2章(10)


◆ 今回の重要単語

  173 なほざり
  174 くちをし
  175 ほいなし
  176 まらうと




 アンケート用紙は、かなりの数が集まっていた。
 みんな熱心に感想を書いてくれている。コメントを読み
たい気持ちを抑えて、私達は、枚数を確認した。
なほざりにかぞふべからずいいかげんに数えるなよ)」
 淳一が、笑いながら釘をさした。私も微笑みながらアン
ケートの枚数を数えていった。間違いなく200枚以上はある。
「俺45枚」
 弘樹が手元のアンケートの枚数を言った。
 淳一が数えたのは37枚、瞳が33枚で、私の手元には39枚の
アンケートがあった。
 最後に、奈美が自分の枚数を言った。
「私が41枚だから……」
 その数を聞いたときに、瞳の顔色がすぐに変わった。
「195枚……」
 私は言葉を失った。奈美が吐くように言う。
あなくちをしああ、悔しい)」
 弘樹は、力なく首を振った。
本意なきことがっかりなことだ)。まらうとお客さん
は、250人はいたよ。俺、こっそり数えていたのに」


 あな…… 感動詞「ああ」。多くは下にシク活用の形容詞の終止形・
       ク活用の形容詞の語幹を伴って使われる。



⇒本書99ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の98ページにあります。)



2010-8-27

【超古典】 第2章(9)


◆ 今回の重要単語

  169 おどろく
  170 いも
  171 かたらふ
  172 ときめく




 振り返って、メンバーの皆に「いくよ」と小さく呟いた。
 一曲目は、『あした驚け朝、目が覚めると、いつも)』
だった。弘樹が一番好きな曲で、どうしてもこの曲から始
めたいとこだわっていた。私のボーカルを、弘樹のラップ
調のコーラスが追いかけてくるアップテンポの曲だ。
 私はマイクに向きなおった。
 瞳のスティックが私の背中でカウントを告げる。
 奈美のベースがクロマティックスケールで降りてくる。
 Gシャープの音まで聞いて、私はシャウトした。
♬「我が僕の大切な君
    コーラス【ツマとも言う言うマイワイフ】
  我が背子私の大切なあなた
    コーラス【ツマとも言う言うマイダーリン】
  二人 かたらひしころ愛を交わしていたとき
    コーラス【妹背 ラヴ・ラヴ・ラヴ・ラヴ】
  おんな ときめい寵愛を受け
    コーラス【ビー・ラヴド】
  おとこ ときめかして寵愛を与えて
    コーラス【ラヴ・ユー】
  あした 驚けば 君が笑へり
  (朝、目が覚めると、いつも君が笑っている
    コーラス【ウェイク アップ!】」


クロマティックスケール……半音ずつ移行していく音階


⇒本書97ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の96ページにあります。)



2010-8-24

【超古典】 第2章(8)


◆ 今回の重要単語

  165 しるし
  166 しるし
  167 かげ
  168 やる




 体育館のステージの上から、フロアを見渡した。
 ビラや口コミのしるしやありけむ効果があったのだろ
うか
)、体育館のフロアは、クラスメートや下級生でいっぱ
いだった。これなら200 人以上は間違いないと思った。
 遠くまでやる視線を送る)、スポットライトの眩
しい)が私の目を射た。優介先生が、演劇部から借
りてくれた唯一のスポットライトだ。
 スポットライトの隣に見えるのは、先生の姿)だろう。
 私の視線に気がついたのか、先生が手を振りおこすのが
見えたり
手を振ってよこすのが見えた)。
 フロアは、少しざわついていた。
 マイクの前で小さく咳払いする。思いの外に大きな音で、
会場に響く。
 大きく深呼吸をして、瞼を閉じた。
 瞼の裏の闇に集中する。闇の中で聞こえる自分の鼓動を
数える。
 瞼を開いた。
 みんなの顔がさっきより、しるく見えたりはっきり
えた
)。


⇒本書95ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の94ページにあります。)



2010-8-20

【超古典】 第2章(7)


◆ 今回の重要単語

  161 むつかし
  162 け
  163 かまへて
  164 こよなし




 奈美の手の上に、私が、私の手の上に淳一が、淳一の手
の上に弘樹が掌を載せた。4 人の掌の上に、最後に瞳が、
控え目に掌を添える。
「今日は、もう、むつかしきことめんどくさいこと)は考
えないよ」
 奈美がきりりとした声で言った。
「今日ならず普段の場ではない)。今こそ晴れなれ
晴れの場
)。200 人集めて、エバー・ブルーに挑むべし
戦しよう
)」
 私はエバー・ブルーのライヴのときのことを思い出した。
私が対バンを申しこんだときに、隣でびくびくしていた奈
美が噓のようだった。200 人のカウント方法も、奈美の手
配にてまうけたり
奈美の手配で準備してある)。ライヴ終
了後、アンケート用紙に名前と感想を書いて提出してもら
う形だ。その数が200 枚を超えていればいい。一番間違い
ない方法だ。
かまへて悔ゆまじけっして後悔しない)」
 淳一が叫んだ。
こよなきライヴにせむこれ以上ないライヴにしよう)」
 私たちは、声をあわせるとステージに駆け上がった。


⇒本書93ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の92ページにあります。)



2010-8-17

【超古典】 第2章(6)


◆ 今回の重要単語

  157 えうなし
  158 せむかたなし
  159 ひとりごつ
  160 ねんず




「許したわけではないけれど」
 母は涙を拭って、呟いた。
こちたく言ひても、はや、えうなきことかな口うるさく
言っても、もはや役に立たないことだなあ
)。せむかたなし
どうしようもない)。知らぬまに、おとなしきことを言ふ
やうになりぬるかな
大人びたことを言うようになったこ
とだなあ
)」
 肩を落とした母は、とても小さく見えた。
 母は寂しそうに笑うと、ひとりごつやうに独り言を言
ように
)言葉を落とした。
これからも、念ずべしやこれからも、我慢しなくてはな
らないのね
)」


「 念ず」には、「祈る」の意味もあるから、「祈らなくてはなら
 ないのね」と訳すこともできる。また、「べし」には可能の意味も
 あるから「これからも我慢できるだろうか」のような意味ともとれ
 る。もしくは意志の意味ととらえて「これからも、ずっと祈ろうか」
 とも取れる。複雑な母の心境を想像してみよう。また、この「や」
 は、疑問を表す係助詞の「や」が終助詞的に使われたもの。



⇒本書91ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の90ページにあります。)



2010-8-13

【超古典】 第2章(5)


◆ 今回の重要単語

  153 しほたる
  154 おのづから
  155 ほい
  156 せきあふ




 母はしほたれつつ涙を流しながら)、瞳の言葉を聞いて
いた。
 瞳が潤んだ目で続けた。強くて優しい視線だった。
おのづからたまたま、偶然)私はお父さんとお母さんの
娘に生まれた。それは有り難くかしこきことと思ひたり
ったにない尊いことだと思っている
)。でも、今、私は、
づから
自分自身で)、自分の力で新しく生まれたいの」
 瞳は、はかばかしう告げたりはっきりと告げた)。
わが本意にはべり私のかねてからの望みです)。私はロ
ックをやります。ピュア・エイジのドラマーになります」
 涙をせきあへずなりぬ涙をこらえきれなくなった)。
 どうして、私は迷っていたんだろう。
 瞳のドラムで歌いたい。
 瞳のビートを背に受けて、私も自分自身を探したい。


⇒本書89ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の88ページにあります。)



2010-8-10

【超古典】 第2章(4)


◆ 今回の重要単語

  149 ゆる
  150 よも
  151 ことなり
  152 かる




 瞳が母に話す前から、『やすくゆるることは、よもあら
簡単に許されることは、まさかないだろう)』とは思ってい
たが、母の反対は厳しかった。
「瞳は、なべての人とはことなり普通の人とは違っている)。
発作が起きたらどうするの」
 私と瞳を交互に見て、母は告げた。少し涙で目が潤んで
いる。私は視線を外した。
「そうよ」
 瞳が強い言葉で答えた。
「私は、ことなり違っている)。お母さんとも、お父さん
とも、ことなり違っている)。麗子姉さんとも、瞳お姉ち
ゃんとも、ことなり違っている)。誰とも同じじゃない、
たった一人の私なんだよ」
 母は黙った。瞳が続けた。
「私は、お母さんから離るべし離れなくてはならない)。
小さい頃は、『母のもとより離れなば、我、枯れぬべし
母さんのそばから離れたら、私はきっと枯れてしまう
)』と
思っていた。でも、今は違う。このままだと、私の心は、
枯れぬべし枯れてしまう)」
 瞳の切なる言葉に胸が軋みたり一途な言葉に胸が軋ん
)。


⇒本書87ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の86ページにあります。)




2010-8-6

【超古典】 第2章(3)


◆ 今回の重要単語

  145 あきる
  146 あやなし
  147 つきごろ
  148 かしづく




「ロックをやりたい」
 瞳の話を聞いた母は言葉を失って、あからさまにあきれ
たり
少しの間、呆然としていた)。
 母は強く首をふると、口を開いた。
あな*1あやなああ、訳が分からない)」
 嘆息のようにも叫びのようにも聞こえる声だった。
年ごろ、かしづきたるに、いかなること長年、大切に育
てきたのに、なんということ
)。愛のせめて誘ひしか
が、無理に誘ったのか
)」
 母が私に鋭い視線を投げた。一か月も前だったら、この
言葉で私は傷ついていただろう。母の愛を疑ったに違いな
い。けれど、どうしてだろう。今は心が騒がない。いつか
私も同じ言葉を淳一に言った……そんなことを思い出しな
がら、私は、黙ったまま首を横に振った。
「お姉ちゃんは関係ない」
 瞳が短く告げた。母が尖った口調で言葉を返す。
月ごろ、つつみたることありとなむ思ひたりし*2
ここ数か月、隠していることがあると思っていた)」

*1 あな、あやな……「 あな」は感動詞。下に形容詞の語幹(シク活
                    用の場合は終止形)を伴って、「ああ、〜だ」
                      の意味になる。「あな、うたて:ああ、いやだ」
                     「あな、うつくし:ああ、かわいい」など。
*2 し…… 過去の助動詞「き」の連体形。係助詞「なむ」の結び。


⇒本書85ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の84ページにあります。)




2010-8-3

【超古典】 第2章(2)


◆ 今回の重要単語

  141 いそぎ
  142 まうく
  143 さうぞく
  144 あからさまなり




 生徒会室でビラを印刷しながら、私は淳一に愚痴った。
「ライヴのいそぎ準備)が一番、後回しになるね」
 淳一は、輪転機のまわる速いリズムに合わせるように、
腰骨のあたりで、ピッキングの練習を続けている。
はかばかしくまうけしっかりと準備しよう)という気
持ちさえあれば、いくらでも時間は出来る」
 きっぱりとした口調だった。童顔の淳一の横顔がすこし
シャープになったように見える。幼馴染みで、ずっと一緒
にいたせいか、気づかなかった。いつの間にか淳一も、男
っぽくなっている。
 私一人、心まうけの遅れり心の準備が遅れている)。
 理由は分かっていた。瞳のことだ。
 私自身、口では強がっていても、どうしても瞳の身体の
事は気にかかった。背中から飛んでくるビートが、激しけ
れば激しいほど、いつ乱れるか、いつ途切れるか、瞳の呼
吸が気になってしまう。
 淳一は、ピッキングの手を休めると、刷り上がったビラ
を手にした。
あからさまに作りぬるにしては、よろしき出来なり
ほんのちょっとの時間で作った割には、それなりに良い
出来だ
)。装束の一つ一つ整ふに用意が一つ一つ
終わると
)、いよいよだなあという気がするな」


⇒本書83ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の82ページにあります。)




プロフィール

《作者》
神田 邦彦

 開成高等学校教諭。
 執筆した主な参考書に『中学総合的研究国語』『超スゴ速古典文法50』(いずれも旺文社刊)があり、そのレベルを超えた専門的な内容と、参考書の常識を超えた面白さで、読者の圧倒的な支持を得ている。
 また、「榊邦彦」という筆名で作家としても活躍。 主な著書に『100万分の1の恋人』『もう、さよならは言わない』(いずれも新潮社刊)があり、『100万分の1の恋人』は、台湾・韓国でも翻訳出版され、好評を博している。

《作者の本》
絶賛発売中!

古文単語ミラクル396
『ミラクル古文単語396』

超スゴ速 古典文法50
『超スゴ速 古典文法50』

《インデックス》

はじめに

第1章
(1)(2)(3)(4)
(5)(6)(7)(8)
(9)(10)(11)(12)
(13)(14)(15)
(16)(17)(18)
(19)(20)(21)
(22)(23)(24)
(25)(26)(27)
(28)(29)(30)
(31)(32)(33)
(34)

主語の省略は怖くない

第2章
(1)(2)(3)(4)
(5)(6)(7)(8)
(9)(10)(11)
(12)

Blog Owner

神田邦彦先生