2011-3-18

【超古典】アナザー・ストーリー ~奈美編~(2)


            【2】

 たまさか偶然)、卒業式の日だった。CDの発売キャン
ペーンを兼ねて、「きんだち」のFM音楽番組への生出演が決
まった。そういうプロデュースに関しては、九重ミュージッ
クの手配は、
らうらうじく洗練されていて)、をさをさ
しき
もの慣れた)ものだった。
 ところせき窮屈な)ラジオ局のスタジオに入ると、例の
いつものように)ふっと音がなべてすべて)私からかる
離れる)ように感じた。防音の行き届いた空間に入ったと
きの感触だ。つゆ
まったく)反響音のない空間に入ると、
気持ちが凛とする。かつ
一方で)、どこかかたはらいたく
いたたまれず)、やさしく肩身が狭くおぼへ
感じあやし奇妙だ)。
 DJのをみな女性)の質問に、隆司がいらへたり答え
)。
月頃ここ数カ月)、デビュー曲につきづきしきふさ
わしい
)曲を、あらたしきどち新しい仲間)で作り込み
ました。ベースの奈美のメロディが、俺の歌詞にぴったりハ
マったのが大きいかな」
「奈美さんが、作曲したんですか」
 DJの質問に一瞬だけ、息を呑んで、
「はい……」
 と、小さく答えた。隆司が曲名を言って、デビュー曲『な
死にそ』がオンエアされた。
 ワンコーラス終えた時だった。ジーンズのポケットに入れた
携帯が震えた。携帯たまづさ携帯手紙:メール)の着信
だった。
「なんだ、奈美、携帯ぐらい切っとけよ。なめきことかな
失礼だぞ)」
 隆司に叱られる。DJも苦笑してしはぶきたり咳払いを
ている
)。
 電源を切ろうとして、携帯を開いた。携帯たより携帯
手紙:メール
)の送り主の名前が見えた。
 淳一だった。オンエアを聞いて、すなはちすぐに
たより・連絡)を送ってきたのだろう。電源を切ろう
としたときに、また携帯が震える。今度は、弘樹の名前が待
ち受けに表示された。二人だけではなかった。やがて
ぐに
)、瞳からの携帯ふみ携帯手紙:メール)が続いて、
最後に愛の名前も表示された。
「いい加減にしろよ。こちたくひどくゐやなし無作
法だ
)」
 隆司が繰り返して、私は電源を切った。
 本当は、メールの内容を、いますぐにでも、ゆかしく
りたいと
)思った。おぼつかなくもどかしくておくゆ
かしき
とても知りたい)思いに駆られる。
 電源が落ちていくのを確かめながら、私は、「かまへて
読むべからず
決して読んではならない)」と、心に誓った。
 メールを開いたら、私の負けのような気がした。みんなに
負けるんじゃない。自分の選んだ道に負けるような気がする。
 もちろん、削除もしない。ずっと携帯の中で、読まないま
ま、とっておこうと思った。
『な死にそ』が終わって、DJと隆司とのトークが続いた。私
は机の下で携帯を握ったまま、ときどき相槌を打つだけだっ
た。隆司が二曲目を紹介する。
「それでは、次の曲。今回のCDのカップリング曲です。『
らなり
言うまでもない)』」
『な死にそ』とは逆に、隆司の曲に、私が詞を添えた。
 この電波の先で、淳一や弘樹や瞳、そして愛が、私の曲を
聴いているのだと思った。
 きよらなる清らかで美しい)イントロに続いて、えん
なる
しっとりと美しい)バラードが始まる。

♬「さらなり、さらなり言うまでもない、言うまでもない)。
  言ふもさらなり言うまでもない)。
  言へばさらなり言うまでもない)。
  言ふもおろかなり言うまでもない)。 
  せむかたなきことなればどうしようもないことなので)、 
  言はむかたなし言っても仕方ない)。
  念じ続けて我慢し続けて、祈り続けて)、
  いみじうたいそう)、せちに切実に)、
  ひたぶるに一途に)」

 私は、電源の切れた携帯を、机の下でギュッと握った。
黙ったまま瞳を閉じて、この歌の先にいる、たくさんのリス
ナーのことを思った。


(『ラヴソングは歌えない』アナザー・ストーリー
                  ~奈美編~ 【了】)




 パスナビブログの読者の皆さん。

 最後までお付き合い頂き、本当に有難うございました。
 これで、パスナビの『ラヴソングは歌えない』の連載は終了です。本の方の完結編では、「愛」や「ピュア・エイジ」のその後が、7章、14頁(172古文単語含)で描かれています。ぜひ、そちらも手にとって、この「奈美編」と一緒に楽しんでもらえると幸いです。
 本の完結編では、『ラヴソングは歌えない』という表題の秘密や、本の「ネオンライトのブックカバー」の秘密なども分かったりします。

 実は、僕は、古文の教員として教壇に立ちながら、教職員バンド「パンピーズ」のギタリストとして20年間ステージに立ってきました。また、「榊邦彦」という名前で、小説も発表しています。ということで、この『ラヴソングは歌えない』は、「古文」+「バンド」+「小説」という、僕が今までの人生で長い時間をかけて取り組んできたものを合体させた、思い出深いものとなりました。
 長くお付き合い頂いた旺文社の方々、そして、何よりも読者の方々に、もう一度お礼を申し上げたいと思います。
 有難うございました。

 もしも興味を持ってもらえたなら、榊邦彦の方の単行本も楽しんでもらえると嬉しい限りです(ちょっと宣伝)。
 詳しくは、
榊邦彦's OFFICIAL WEBSITE
榊邦彦's Official Blog
 をご覧ください。

 それでは、皆さん。
 またお会いしましょう。
 お元気で。

                     神田邦彦

2011-3-15

【超古典】アナザー・ストーリー ~奈美編~(1)

パスナビブログの読者の皆さん。

 『ラヴソングは歌えない』の連載、いかがでしたか。
 一年間、99回の連載を最後まで読んでくださり、有難うございます。
 実は、『ミラクル古文単語396』では、この99話で396単語を学習した後、「完結編」として、袋とじ企画がついています。7章(14頁)の中に172単語をちりばめて、スピーディーに古文単語を復習しながら、『ラヴソングは歌えない』のストーリーの続き、そして結末までが、楽しめるようになっています。
 
 さて、今回の連載ですが、本の袋とじ企画とは違って、別のストーリーを二章分書き下ろすことにしました。形式は本の袋とじの部分に倣いましたので、本の完結編の雰囲気も感じてもらえると思います。
 本の完結編では、主人公「愛」や「ピュア・エイジ」のその後が描かれていますが、こちらでは、「ピュア・エイジ」を脱退して「きんだち」に参加した「奈美」のストーリーを追ってみました。いわば、「『ラヴソングは歌えない』アナザー・ストーリー」ですね。
 二章の中に、ちょうど100の古文単語を散りばめましたので、このアナザー・ストーリーを楽しみながら、重要単語の復習に役立ててください。
 今回と、次回の二回に分けて、掲載したいと思います。
 それでは、次回、アナザー・ストーリー完結の後に、またお会いしましょう。



 

            【1】

「今日、センター試験だな」
 隆司にゆくりなく不意に)声をかけられて、私はベー
スのチューニングを中断した。
「そうだね。みんな……」
 一瞬、言ひさし言いかけて止め)、手元のベース
のピックアップを意味もなくまもりたりじっと見つめ)。
「奈美も受ければ良かったのに。あたらしくもったいな
)思うよ。本当に良かったのか」
 隆司がおいらかに穏やかにこととふ尋ねる)。
はしたなき中途半端な)ことはすべからできな
)」
 やをらそっと)嘆息して、私はベースを抱えた。
あだなる無駄な)おしゃべりはやめようよ。えうなき
役に立たない)ことだよ。それより、練習しよう。私はみ
んなの音にもっとならふべし慣れなくてはならない)」
「奈美は、まめやかなるかな真面目だなあ)」
 隆司が苦笑して、他のメンバーに合図した。ドラムの俊輔
が、カウントして、隆司が、静かに「な死にそ
死なないで
)」とアカペラで歌い始める。デビュー曲の『な死にそ』だ。
隆司の声に続いて、すぐにドラムのクラッシュシンバルが弾
けて、激しいビートがスタジオに満ちた。
 ワンコーラス終わる度に、九重ミュージックのディレクタ
ーの田辺さんが、「もう少し、とき速い)リズムで」と
か、「そのフレーズは、もっというに優しく)弾くとい
いね」とか、「けしうはあらざれども
そう悪くはなかっ
)、ベースとバスドラがもろともに一緒に)刻んだ方
けにいっそうをかしかるべし趣があるだろう)」
などと、アドバイスしてくる。
 田辺さんのことのは言葉)は、一つ一つがいととても
かひがひしく効果的で)、あっという間に、曲の中に
あら
たしき
新しい)魅力が吹きこまれて、うるはしき

正で美しい
)楽曲に仕上がっていくのが分かる。
 ピュア・エイジで、手探りで練習していた時とは比べられ
ないほど効率的だ。私の技能)だけが、
かたほなるやう
未熟な様子)で、やうやうかろうじて)みんなに付い
ていっている状態だった。それでも、練習する度に
はかばか
しう
しっかりと)上手くなっているのは実感できるから、
『きんだち』の時間は、かしこうとても)充実している。
 ただ、ときおりベースの休符が続いたりすると、などか
どうして)、かなしき胸がキュンと痛む)感じがする。
「奈美、いかでかどうして)、ぼーとしているんだ。
からめ
すべからず
脇目をしてはいけない)」
 田辺さんに声をかけられて、私は「すいません」と頭を
垂れた。
「デビューも近いんだから、ちゃんとねんごろに熱心に
練習してくれないとこうずること困ったこと)になる」
「すいません。もう一度、はじめからお願いします」
 私の言葉に、田辺さんが頷いて、『な死にそ』がイントロ
から繰り返された。

♬「な死にそ死なないで
  はかなくなり死なないで
  むなしくなり死なないで
  いたづらになり死なないで
  あさましくなり死なないで
  何度でも言うよ ああ 
  みまかり死なないで) かくれ死なないで
  なななななななな  往に 消え 失せ 果て 死に
  そそそそそそそそ絶対に死なないで)」

 私がメロディーを作った曲だった。ピュア・エイジでもい
くつか作曲したけれど、かかるこのほど程度)、

たき
完成された)曲は、さうなし並ぶ物はない)。
 隆司の書いた詞も、そこばくとっても面白し趣が
ある
)。しかも、やんごとなきこの上なくすばらしい
隆司の声で歌われると、私が書いた曲だというのが信じられ
ないほどに、ありがたくめったにない程めでたき

ばらしい
)曲に聞こえる。
 私の曲が、CDになって、みなのがりもと)へ届く。そ
のことを思えば、ピュア・エイジのことはかひなき
取る
に足らない
)ものだ。みづから自分で)選んだ道だ。

だし
心を束縛するもの)は持ってはいけない。私は、心
の中であながちに無理やりに)、何度も繰り返しながら、
ベースのリズムを追い続けた。
                    (【2】に続く)

2011-3-11

【超古典】 第3章(33)


◆ 今回の重要単語

  393 ~むからに・~んからに
  394 かくて
  395 ざえ
  396 きんだち



 私は息を呑んだ。
などか……どうして……)」
 それだけ言うので精一杯だった。奈美が、街灯に光る髪
を一度かき上げて言った。
大学に行かむからに、何をかせん大学に行ったからとい
って、何をしようか
)。かくて受験勉強をし続けたらむから
、いかなる甲斐のあるべき
こうして受験勉強をし続け
ていたからといって、どんな甲斐があるんだろう
)。……そ
んなことを思い悩んでいた頃だった。エバー・ブルーの隆
司から、連絡が入ったの」
 唐突に出た名前に、私は混乱した。奈美が続けた。
「エバー・ブルーを解散して、新グループでデビューする。
九重ミュージックの会長に、ざえ才能)が認められたって」
 奈美の言葉は、私の頭の中で空回りするばかりだった。
「その新グループに、私を誘ってくれたの。ベースで参加し
てほしいって」
 思わず私は尋ねていた。
「翔は……翔はどうするの?」
「翔さんは、『きんだち貴族の子弟)』には参加しない」
「キンダチ?」
「新しいバンド名だよ」

 ⇒「ラヴソングは歌えない アナザー・ストーリー ~奈美編~」に続く

⇒本書211ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の210ページにあります。)




2011-3-8

【超古典】 第3章(32)


◆ 今回の重要単語

  389 まさし
  390 すがすがし
  391 そこばく・そくばく
  392 てづから



「愛は偉いね」
 奈美が静かに言って、私は黙った。
そこばくまさしきことを言ふかなとっても正しいことを
言うなあ
)」
 奈美の口ぶりをこころづきなく覚えたり不愉快に感じ
)。私は、少し尖った声で答えた。
「私だって、のんきに思っているわけじゃないよ」
 奈美の視線が私に真っ直ぐに向いた。ショートカットの
髪に街灯の光が映って、白く輪のように輝いている。
 奈美が言った。
「……愛には、すがすがしう言ふべし思いきってあっさり
言うね
)」
 奈美の口調はてづからみずから)言い聞かせるような
感じだった。
「奈美……何が言いたいの」
 奈美が小さく深呼吸するのが分かった。
 イントロに入る直前、ベースを構えた一瞬に、よく奈美は、
そんな深呼吸をしていたのを思い出した。
 奈美は、私から視線を逸らさないまま言った。
「私、大学入っても、もうピュア・エイジは続けられない」


⇒本書209ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の208ページにあります。)




2011-3-4

【超古典】 第3章(31)


◆ 今回の重要単語

  385 にほひ
  386 あへなし
  387 さとずみ
  388 ものいみ



 公園についたときは、子の刻十一時)になろうとして
いた。
 奈美は、公園の隅の街灯に寄りかかっていた。
 私の姿に気づいた奈美が、街灯から背中を離した。
「愛、ごめんね、とみに急に)呼び出したりして」
「どうしたの?」
 奈美が、首を傾げた。街灯の光のせいだろうか。あやし
にほひの増したるやうにおぼゆ
不思議と美しさが増し
ているように感じる
)。
「愛は、受験勉強の様子、どう?」
 私は苦笑して言った。
にぎははしき内をまかりてにぎやかで活気のある宮中か
ら退出申し上げて
)、わびしく里住みしたるやうなりさび
しく自分の家で過ごしているようだ
)」
 奈美は「愛も古文が得意になったね」と微笑むと、
里住み自分の家で過ごす)というより、長き物忌みのや
うなり
凶事があって、長く家にこもっている状態のようだ)」
 と呟いた。私は少し俯いて奈美の言葉に答えた。
「でも、私は、あへなしはりあいがない)とは思わないよ。
……ピュア・エイジの充電期間だと思うようにしている」


⇒本書207ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の206ページにあります。)




2011-3-1

【超古典】 第3章(30)


◆ 今回の重要単語

  381 こちなし
  382 にぎははし
  383 とみ
  384 かへし



 奈美の電子せうそこメール)には、
「今、小学校の前の公園にいる。ちょっと出てこられない?」
 と短く記されていた。
 こちなく短きせうそこなり無風流で短いメールだ)。
 例の絵文字のにぎははしきせうそことはことなりたり
つものような、絵文字がたくさんあるメールとは違っている
)。
 こんな時間に、わざわざどうしたのだろう。
 とみのことかな急なことだなあ)と思いつつも、私は、
かへしをやりたり返事を送った)。
「どうしたの? いますぐ行く」
 送信ボタンを押すと、ディスプレイの中に小さな鳥が現
れて、口にたまづさ手紙)をくわえて運んでいく。
 鳥が羽ばたく姿を見ていると、不意に、小さな不安が私
の中をよぎった。
 私は息を潜めて、ディスプレイをまもれりじっと見つ
めた
)。
 画面が、ふっと変わって、
「送信完了しました。……神無月十六日亥三つ時十月
十六日 午後十時
)」
 の文字が浮かんだ。


⇒本書205ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の204ページにあります。)




2011-2-25

【超古典】 第3章(29)


◆ 今回の重要単語

  377 ふみ
  378 せうそこ
  379 うつる
  380 いざよひ



 をまなびたるとき漢文を学んでいたとき)、「すべて
の約束は色褪せる」
 そんな文章に出会った。

   諸行ハ無常ナリ。
   (万物は、永遠不変なものではない。
   一切ノ約束モ亦タ是クノ如シ。
   (すべての約束も同様にこのようなものである
   時ニ従ッテ移リ
   (時の流れに応じて、変化し色褪せ
   唯ダ衰滅ニ帰スル耳。
   (ただ衰え消えていくばかりである
            ***
 奈美のせうそこのありしは奈美の訪問があったのは)、
この言葉を知った数日後、神無月のいざよひなりき十月
十六日の夜だった
)。
 その日、私はあまりパッとしなかった模擬試験の復習に
手を焼いていた。ようやく一通り目を通し終わって、ベッ
ドに横になったとき、枕もとの携帯が震えた。
 電子せうそこメール)の着信だった。


⇒本書203ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の202ページにあります。)




2011-2-22

【超古典】 第3章(28)


◆ 今回の重要単語

  373 をこがまし
  374 ゆゑゆゑし
  375 かた
  376 ありあけ



さなりそうよ)」
 老婦人が微笑んで言った。
いつくといふかたにては育てるというでは)、愛も子
供も同じなり
愛も子供も同じである)。若い人は、一瞬の
ときめきを、愛のように思うかもしれないけれど、本当は
長い時間をかけて、大切に育てていくものだと思います」
 おうな老婦人)は、そこまで言うと、恥ずかしそうに
口元を緩めた。
「……なんだか、たくさん話してしまいましたね。私ばかり
話して、をこがましかりけり愚かしかったことだ・さし
でがましかっ
たことだ
)。付き合わせちゃって、ごめんなさ
いね」
「いえ、そんなこと」
「また、いつでも参りたまへお参りしてください)」
 おうな老婦人)は言い残すと、おきな老人)の手を
引いて、私の前から去っていった。
 おきな老人)は、去り際にほんの一瞬、私に頭を垂れ
ただけで、最後まで一言も言葉を発しなかった。なかなか、
ゆゑゆゑしうおぼゆる気色なり
かえって、品格があるよ
うに
感じる様子だ
)。
 二人の往にかたを見やるに去っに視線を送ると)、
有り明けの月朝まで残った月)が、ぼんやりと白く光っていた。


⇒本書201ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の200ページにあります。)




2011-2-18

【超古典】 第3章(27)


◆ 今回の重要単語

  369 いつく
  370 おいらかなり
  371 おほどかなり
  372 あいぎゃう



 おうな老婦人)は、おきな老人)に、また視線を送
った。
「二人でたくさんのものを、いつきわたりにけり大切に育
続けてきたことだ
)」
 おうな老婦人)の眼差しは、いと愛敬に満ちたる気色
なり
たいそう優しい思いやりに満ちた様子だ)。
子をなむいつき子供を大切に育て)。寺をなむいつ
お寺を大切に育て)」
 はじめて会ったおうななり老婦人だ)。こんなに話しか
けられて、おほかたは、むつかしう覚えぬべしふつうは、
うっとうしく感じるにちがいない
)。されど、あやしうここ
ろやすく覚えたり
けれど、不思議と心安らかに感じていた)。
 おうなのおいらかなる言葉老婦人の素直で穏やかな
)は、まっすぐに私の胸に染みていった。
 おうな、おほどかに続けたり老婦人が穏やかに続けた)。
「子供やお寺だけじゃないわ。二人して、愛をなむいつき
二人で、愛を育て)」
愛をいつく……愛を育てる……?)」


⇒本書199ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の198ページにあります。)




2011-2-15

【超古典】 第3章(26)


◆ 今回の重要単語

  365 そのかみ
  366 ひじり
  367 おきな
  368 おみな・おうな



 老婦人は、少し恥ずかしそうに笑うと、話題を変えた。
「実はね、このお地蔵様、この人が若かった時に彫ったのよ」
 婦人は、隣に立った老人に少し視線を向けた。静かで優
しい眼差しだった。
「いつのまにか、かく年老いたるおきなおみなになりにけ
こんな年老いたお爺さんお婆さんになったことだ)」
 おうな老婦人)に手をひかれたおきな老人)も、細
い目をいっそう、細めて微笑んでいる。
「この人も、今は目も悪くなったし、身体も弱っちゃったけ
れど、若きほどは、いとうるはしかりけり若いころは、
とても素敵だった
)。そのかみ、『いみじきなりけり』と
聞こえはべりき
。(当時は、『すばらしい高僧だ』と評判で
した
)」
 「聖」と言われたおきな老人)が、困ったようにまた目
を細めた。私は尋ねた。
「……音行寺のご住職にやおはしますご住職でいらっしゃ
るのか
)」
 おうなのいらへき老婦人が答えた)。
「今は息子の代ですが、としごろ長年)住職を務めていま
した」


⇒本書197ページ
 (今回の重要単語の詳しい説明は、本書の196ページにあります。)




プロフィール

《作者》
神田 邦彦

 開成高等学校教諭。
 執筆した主な参考書に『中学総合的研究国語』『超スゴ速古典文法50』(いずれも旺文社刊)があり、そのレベルを超えた専門的な内容と、参考書の常識を超えた面白さで、読者の圧倒的な支持を得ている。
 また、「榊邦彦」という筆名で作家としても活躍。 主な著書に『100万分の1の恋人』『もう、さよならは言わない』(いずれも新潮社刊)があり、『100万分の1の恋人』は、台湾・韓国でも翻訳出版され、好評を博している。

《作者の本》
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古文単語ミラクル396
『ミラクル古文単語396』

超スゴ速 古典文法50
『超スゴ速 古典文法50』

《インデックス》

はじめに

第1章
(1)(2)(3)(4)
(5)(6)(7)(8)
(9)(10)(11)(12)
(13)(14)(15)
(16)(17)(18)
(19)(20)(21)
(22)(23)(24)
(25)(26)(27)
(28)(29)(30)
(31)(32)(33)
(34)

主語の省略は怖くない

第2章
(1)(2)(3)(4)
(5)(6)(7)(8)
(9)(10)(11)
(12)(13)(14)
(15)(16)(17)
(18)(19)(20)
(21)(22)(23)
(24)(25)(26)
(27)(28)(29)
(30)(31)(32)

主語の転換は怖くない

第3章
(1)(2)(3)(4)
(5)(6)(7)(8)
(9)(10)(11)(12)
(13)(14)(15)
(16)(17)(18)
(19)(20)(21)
(22)(23)(24)
(25)(26)(27)
(28)(29)(30)
(31)(32)(33)

アナザー・ストーリー
(1)(2)

Blog Owner

神田邦彦先生